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ブログ「一般道各駅停車の旅」

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2013年 01月 24日

フィクションとは思えない

先代がお客様に美味しいフレンチを食べて頂いて
喜んで頂くのをみたくて始めたレストラン。
おかげさまで、その味が大ヒットして有名大手レストランとなった。
そんなレストランのお話。

店の前には行列が出来ている。
ん?
確か開店の時刻は15分も過ぎてるけど・・・。
聞けば、従業員向けの夕礼が長引いているらしい。
どうしても「いらっしゃいませ」が上手く唱和できない若手ホール担当がいるようだ。
そんなお店の外では、お客様が寒さで凍えながらお店の開店を待っている。

このレストラン、
有名になったからといって衛生面ではとても気を使っている。
実は食材を市場で値切って、浮いた資金で大型食器洗浄器を購入した。
また、より洗浄しやすいという理由で、料理長の考えを押しのけ
食器が洒落た物からシンプルな物に変更になり、
フレンチの料理のソースにも、汚れになりにくい食材に限定となった。

店先には最近設置されたらしい高価な電飾の看板がある。
この店をもっともっとイメージアップしたいという趣旨の元、
食材のグレードを少しだけ落として、大金を叩いて購入したらしい。

やっと開店したレストランでMENUを選ぶお客様。
どうやら注文が決まったようで、ホール係がそのお客様に呼ばれた。
ホール係がそのテーブルに向かおうとしたその時、何やら大きな声が聞こえた。
「おい、早くしろ!社長が来てるんだぞ!」
お客様のテーブルに向かいかけたホール係りは
引き返して慌ててバックヤードに消えていった。
お客様は注文を聞いてもらえずに待たされた。
本日はこのレストランの経営者が視察に来ていて、何やらミーティングがあるらしい。
内容は「接客の重要性について」だそうだ。

さて、厨房ではレストランの命である料理が作られようとしていた。
ところが今日は、スタッフが一人足りない。
料理長が聞けば、外部団体主催の研修に行ったそうだ。
こんな混雑しそうな日に、仕込みの要であるコックを欠いて料理長も大変のようだ。
聞けば、料理関連の研修ではなく、「レストランのコンプライアンス」についてだそうだ。
それも大切だが、何もこんなに厨房が忙しい日に参加しなくても・・・。
料理長は違和感を感じながら、普段はしない仕込みから取り掛かった。

仕込みが終わって、フレンチの要のソース作りだ。
その時、食器洗浄部隊からインターフォンが入った。
「洗浄し難い食材や食器を使ってないでしょうね?」
そんなインターフォンの対応をしていたらソースが少し焦げてしまったようだ。

さあ、次にコース料理の心臓部、メインディッシュの調理にさしかかる。
その時、突然若手社員が退社の準備を始める。
驚く料理長・・・。
聞けば、残業が多すぎて労働組合から目をつけられており、帰らざるを得ないようだ。
料理長はこの時、本日のメインディッシュのサイドミールを一品減らすことを余儀なくされた。

お客様にメインディッシュがサーブされた。
サーブするのは最若手ホール係である。
「いらっしゃいませ」が上手く言えなかったあの社員だ。
ホールのベテラン社員達は皆、社長のミーティングに参加しているからだ。

ぎこちない若手社員のサービスの中、お客様はメインディッシュを口にする。
ちょっぴりソースが焦げ臭い。
しかも、前回来たときと比べて、サイドミールが寂しい感じがする。
皿は100均で売ってそうな味気ないもので雰囲気もくそもない。
何より肝心要の味が落ちたような気がする。

本日のディナーはイマイチだったなあ。
お客様が会計をしようと席を立つと、ホール係が叫んだ。
「すいません、ちょっと、そこ、道を開けてください!」
レストランの経営者である社長が肩で風を切って横切っていった。
やがて黒塗りのセダンの中へ消え、レストランの従業員のほぼ全員が店外に出て頭を垂れている。

外では数百万円する電飾の看板が煌々と光っていた。

その夜、料理長は辞表を書く決意が固まった。


Takuma@一般道各駅停車の旅

by ichikakutabi | 2013-01-24 19:24 | 柄にもなく・・・ | Comments(10)
Commented by M谷 at 2013-01-24 21:20 x
商売の方向性が間違ってますね。
なんだか最近も、弊社内で似たような事例を聞いたような気が…


他人事じゃないですね。
怖い怖い(^-^;
Commented by ichikakutabi at 2013-01-24 21:47
M谷さん

このレストランには、厨房にも入ったことがない社員が作った立派な教育制度があって、
そのコックの味目当てのお客さんがたくさんいるのにも関わらず、
一定期間を経過すると別の遠くの店にシフトされてしまうそうな。

Commented by 娘はガッキー at 2013-01-25 00:00 x
うふふ(--〆)
Commented by ichikakutabi at 2013-01-25 00:57
娘はガッキーさん

お待ちしておりました、料理長!
この文章を書きながら、
貴殿の顔がどれだけ浮かんだ事でしょう!
すいませんね、
勝手にフィクションの主人公のモデルにしてしまって・・・。
料理長にいかに美味しい料理を作りやすい環境を提供出来るかって、
頑張ってきたつもりですが、
すいません、力足らずで・・・。
お客様の笑顔って言うのは少々耳障りが良過ぎるかも知れませんが、
せめて売上が最優先されるレストランであって頂きたいものです。
これを分からずして、現場が第一なんて言って欲しくないんですね。
Commented by 坊ちゃん at 2013-01-25 11:30 x
まるで、某会社のようだ…(-.-#)
Commented by hakatakko at 2013-01-25 12:04 x
ホント、他人の会社の話とは思えません。
Commented by ichikakutabi at 2013-01-25 12:25
坊ちゃん

あらあら・・・。
結構、こんな会社多いのですかね~。
Commented by ichikakutabi at 2013-01-25 12:34
hakatakkoさん

あら、
貴殿の知ってる会社も・・・。

皆さん大変ですねぇ。

でも、このレストランには
お客様や社長には目もくれずに
一心不乱に床磨きをしている清掃係がいて、
いつも幸せそうな顔をしているんだそうです。
うらやましい。笑
Commented by fumuko at 2013-02-13 13:25 x
あ~わかるわかる!!
先日も某親会社の方に、工事会社は現場が命ですよね?
現場を見殺しにしてそれでいいんですか?なんて
えらそうに言ってしまいました…
Commented by ichikakutabi at 2013-02-13 21:31
fumukoさん

あらあら、何とも久しぶりですね!
元気でしたか?
なかなかお会いも出来ない状況になってしまったのですから
たまには元気なコメントくださいね~。
でも、お元気そうで、なにより!
本当に、サラリーマン社会っていうのは面白いところで
マンガになりそうな話がたくさんありますよね。

まあ、わたしの勤める外資系のIT企業は実力主義だから
そんな話とは無縁なんですけどね!笑
会議も英語か中国語のみで日本語を忘れそうです!爆


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